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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)294号 判決

控訴人兼附帯被控訴人(以下、第一審被告補助参加人という) 降矢敬雄

控訴人兼附帯被控訴人(以下、第一審被告補助参加人という) 鈴木彦吉

右両名訴訟代理人弁護士 沼辺喜郎

同 鈴木久義

第一審被告 廷興開発株式会社

右代表者代表取締役職務代行者 新野慶次郎

被控訴人兼附帯控訴人(以下、第一審原告という) 松崎琢次

主文

一、本件控訴をいずれも棄却する。

二、附帯控訴にもとづき原判決のうち第一審原告の敗訴部分を取り消す。

三、第一審原告が第一審被告会社の株式一六、〇〇〇株の株主であることを確認する。

四、第一審の訴訟費用のうち参加によって生じた部分および第二審の訴訟費用は、第一審被告補助参加人両名の連帯負担とし、その余の部分は、第一審被告の負担とする。

事実

第一審被告補助参加人両名代理人は、「原判決のうち第一審被告の敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告の負担とする。」との判決および附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決をそれぞれ求め、第一審被告代表者は当審第一回口頭弁論期日に出頭しなかったため陳述したものとみなされた準備書面(当庁昭和四六年四月一日受付)には、「原判決のうち第一審被告の敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求める旨の記載があり、第一審原告は、控訴棄却の判決、附帯控訴として主文第二、第三項と同旨および「訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告補助参加人らの負担とする。」との判決ならびに新たな予備的請求として、「第一審被告会社は、訴外佐藤福人に対して、第一審被告会社の株式一、〇〇〇株券一六枚を発行して交付せよ。」との判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに証拠の関係は、次に付加するほか、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

第一第一審原告の陳述

一、第一審被告会社が第一審原告に約した株券発行の期日にその履行をしなかったことは、商法二〇四条二項の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するを相当としない状況に立ちいたった場合に該当するから、第一審被告会社としては、第一審原告の請求するとおりの株券を発行して交付すべきはもとより、第一審原告が主張のような株主であることを認めなければならない。

二、仮に前項の主張が容れられないときは、第一審被告、同補助参加人らの主張は禁反言の原則、信義誠実の原則に反し、かつ、権利の濫用にもあたるから、いずれにしても排斥されるべきである。

三、(予備的請求の原因) 第一審原告は、主位的請求の原因として述べたとおり、訴外佐藤福人から第一審被告会社の株式一六、〇〇〇株の譲渡を受けたのであるが、右訴外人は右株券譲渡にもとづく引渡義務を履行するために自らその発行交付を第一審被告会社に請求すべき義務があるのにもかかわらず、これをしない。それで、第一審原告は右訴外佐藤に対する本件株式譲渡に伴う株券引渡請求権を保全するため、債権者代位によって訴外佐藤の第一審被告会社に対して有する本件株券交付請求権を代位して請求する。

なお、第一審被告会社は設立当初株主一二名を擁し、その持株数も区々となっているけれども、その株金払込みは訴外佐藤福人だけがしており、他の株主は全く株金払込みをしておらず、たんに第一審被告会社設立の形式を整えるための名義貸人であって、実質的には右訴外人の一人会社である、したがって、本件株式の実質上の株主は訴外佐藤福人であり、その持株一六、〇〇〇株の株券発行交付請求権もまた、(名義人が何びとであるにしても、同訴外人が自らその株式の引受けをする意思で株式引受をしているのであるから)その効果は当然同訴外人に生ずることになるのである。

第二第一審被告補助参加人らの主張

第一審原告と訴外佐藤福人との間に第一審被告補助参加人両名を除く計一〇名の株主の有する株式一六、〇〇〇株を目的とする本件譲渡担保契約なるものが締結されたが、右契約は第一審原告が第一審被告会社のために第三者から金融を得易くするための方便として、形式的に契約書を作成したい旨の提案にもとづいて締結されたのであり(甲第一号証の一)、その後これに第一審原告によって「根担保」なる文書が追加され、さらに同人の指示にもとづいて覚書(甲第一号証の二)が作成付加されたほか、相前後して取締役会議事録(甲第二号証)、株式引換証(同第三号証の一)、証明書(同号証の二)、株式譲渡証(同第四号証の一ないし一〇)など一連の書類がいずれも第一審原告の指示にもとづいて訴外佐藤福人により真正な株主の承諾なく作成されて、第一審原告に交付されたのである。したがって、本件株式はいまだ第一審原告に確定的に譲渡されてはいない。

第三証拠の関係≪省略≫

理由

一、第一審被告会社が昭和四三年七月一六日設立登記を経た発行済株式の総数二〇、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、資本の額一〇、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であり、右株式についてはいまだ株券が発行されていないこと、第一審原告が右会社の取締役であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、第一審原告が昭和四四年五月一五日第一審被告会社の株主たる訴外佐藤福人から同会社の株式一六、〇〇〇株を譲渡担保として譲り受けたことが認められる。

そして、第一審被告会社が昭和四四年五月二〇日の取締役会において、右譲渡を承認する旨の決議をなしたことは当事者間に争いがなく、かつ、第一審被告会社は、右株式についての株券が未発行であるため、同年七月一五日までに株券を発行し(前掲甲第一号証の一、第四号証の一ないし一〇によると、その株券は一、〇〇〇株券一六枚合計一六、〇〇〇株と認められる)これを株式引換証と引き換えに交付する旨を記載した第一審原告宛の株式引換証を発行し、かつ、第一審被告会社株主名簿に昭和四四年五月一四日付をもって第一審原告名義に登録した旨を記載した株式引換証を第一審原告に差し入れた旨を自認するから、これに反する特段の立証のない本件においては右の記載に対応する事実があったものと推認され、第一審原告が右株式引換証を現に所持していることは第一審被告らにおいて明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

これに対して、第一審被告補助参加人らは、前記譲渡担保契約は第一審原告が第一審被告会社のため第三者から金融を得易くするための方便として、訴外佐藤福人と第一審原告との間にこれにそう契約が締結されたかのような形式をとっただけのことであり、またその後の手続が履践されたことを証する一連の書類はいずれも第一審原告の指示にもとづき訴外佐藤福人により真正な株主の承諾なく作成されて、第一審原告に交付されたものであると主張するが、右事実を立証する証拠資料はなく、前示認定の事実を覆えすのに足りる証拠はない。

二、おもうに、株券発行前に意思表示のみによって記名株式の譲渡があった被告には、譲渡当事者間で有効であるのはもとより、会社においても信義則に照らしその譲渡の効力を否定するのが相当でない状況に立ちいたったときは、それ以後右譲渡は会社の関係においても有効となり、会社はもはや株券の発行前であることを理由にして譲渡の効力を否定することを許されず、譲受人を株主として遇すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみるのに、第一審被告会社は、本件株式が訴外佐藤福人より第一審原告に譲渡されてから五日後の昭和四四年五月二〇日に開かれた取締役会でその譲渡を承認し、かつ、同会社の株主名簿に同年五月一四日付で譲受株式の株主を第一審原告名義に登録したばかりでなく、同年七月一五日までに右株券を発行して株式引換証と引き換えに第一審原告に交付する旨を約したのであるから、少なくとも右七月一五日以後においては、第一審被告が株券の発行前であるからといって、第一審原告との関係においてその譲渡の効力を否定することは、信義則にかんがみ相当でない。したがって、本件株式の譲渡は、譲渡人たる訴外佐藤福人との間においては当初から有効であり、昭和四四年七月一五日以後は第一審被告会社との間においてもその効力を生じ、第一審原告は右株式につき株主としての権利を行使する資格を有するにいたったものというべきである。なお、本件におけるような未発行株券の交付請求権が原始株主のみに帰属し、第一審被告会社がその譲受人たる第一審原告に対し株券を発行することを許されないという法理はない。

三、してみれば、第一審被告は第一審原告に対しその主張にかかる株券を発行して交付すべき義務があり、また第一審原告が第一審被告会社の株式一六、〇〇〇株の株主であることにつき同被告との間に争いがあるから、これが確認を求める利益があるものといわなければならない。

よって、第一審原告の請求はすべて正当としてこれを認容すべきであり、第一審被告参加人らの本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却し、第一審原告の附帯控訴は理由があるのでこれと異る原判決のうち第一審原告の敗訴部分を取り消したうえ同原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条および九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 岡垣学 兼子徹夫)

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